【柳原敏夫弁護士】
2024年11月6日
私たちは4人の所帯の小さな市民団体です。ですが、今年出版されたブックレット「わたしたちは見ている:原発事故の落とし前のつけ方を」を一人でも多くの人に知ってもらいたくて、ブックレットの拡散、本代の回収、記録をおこなう会を今年5月に4人で立ち上げました(「災害時の人権を考える会」といいます)。そして、「災害時の人権を考える会」の名前で、新しい振替口座を開くために、ゆうちょ銀行に口座開設の申込をし、必要な書類等をすべて準備し、受理されました。
ところが、その後、ゆうちょ銀行から、口座開設を拒否しますという書類が届きました。けれど、そこにはなぜ、私たちの会が振替口座を持てないのか、その理由の説明が何も書いてありません。それどころか、その理由についての問合せにも応じないと書いてありました。この問答無用の回答を受けて、私たちは、ゆうちょ銀行のHPから、 どうやらマネー・ローンダリングかテロ資金の関係する組織とみなされた場合には口座開設を却下することを突きとめ止めました。そして、7月10日に、ゆうちょ銀行宛に、私たちの口座開設申込を拒否した理由について、きちんと説明して下さい、もし私たちがマネー・ローンダリングかテロ資金の関係する組織と疑われているのなら、その疑いを晴らすために必要な手立てを協議する場を設けて下さい、という「質問&協議の申入れ」をしました。
それから18日待ちましたが、回答がありませんでした。そこで、7月30日、「再度の質問&協議の申入れ」を作成し、投函する矢先、ゆうちょ銀行から回答書が届きました。それは「回答できない」ということをグダグダと慇懃無礼に述べた回答でした。そもそもゆうちょ銀行は、こんなしょうもない無意味な回答をするためだけになぜ18日もかかったのか、そこからしてますます不可解、ますます腹の虫が収まらず、「再度の質問&協議の申入れ」を投函しました。けれど、それに対して、ゆうちょ銀行からは何の回答もありません。このままでは団体の運営が立ち行かなくなる。やむを得ず、この問題は公平な第三者の立会いのもとで明らかにするしかないと考え、本日、裁判所に提訴することにしました。それが1円の損害賠償訴訟です。
私たちが思うに、これは決して単なるちっちゃな出来事ではありません。或る日突然、私たち市民の活動に「マネー・ローンダリングやテロ資金の関係する組織」というレッテルを貼られ、私たちの活動に必要な血液(お金)を回すための心臓(ポンプ)みたいな役目をする銀行口座が開けなくなり、活動停止を余儀なくされる――だれもがこのような目に巻き込まれる可能性があることを今回の一件は示したからです。
それは、決してささいな問題ではありません。今回の口座開設拒否は、市民が私たちの社会を自分たち自身の手で運営し、統治するための基本的な市民活動、この自己統治に対する重大な規制だからです。人権でいうと、憲法21条が私たちに保障している「結社の自由」に対する理不尽な規制だからです。
私たちは、私たちの開かれた社会が健全に運営されるために、裁判の中で、ゆうちょ銀行に何が起きているのかその真相を明らかにし、理不尽な扱いを是正し、問題の解決をめざす積りです。
市民団体「災害時の人権を考える会」代表 柳原敏夫