中国は本気で「尖閣」上陸を考えているのか
泉川友樹さん(沖縄大学特別研究員)に聞く
南西諸島を中心とした日本の軍備拡張がすすんでいる。琉球弧のミサイル基地配備はあらかた終わり、その最終段階の石垣島では来年3月に基地完成が予定されている。また来年度予算では、防衛予算の大幅増額が見込まれている。その根拠が、中国の軍事大国化、尖閣周辺での中国公船の領海侵入の頻繁化である。最新の防衛白書では、中国は「我が国領海への侵入をくりかえしている」と述べている。しかし、これは事実なのであろうか。
沖縄大学地域研究所特別研究員の泉川友樹さんは、「事実に基づいて政府の方針を批判したい」と述べる。泉川さんによると、日中間の尖閣をめぐる緊張関係は少なくとも政府間では沈静化しているという。一番緊張関係にあったのは、2012年の当時の石原慎太郎都知事による「尖閣諸島購入計画の発表」とその後の当時の民主党政権による「尖閣諸島国有化宣言」時である。
2012年の中国艦船の日本の主張する「領海」への「侵入」は、月平均で5日であった(海上保安庁HPより)。それが、2015年には月平均で4.5日、そして2014年には2.91日に減る。そして以降は今年に至るまで月平均2日~3日程度で推移しているのだ。
2014年以降、「侵入」日数がおちついているのには、大きな要因があると泉川さんは指摘する。それは、2014年11月7日に日中間で取り交わされた「日中関係の改善に向けた話し合い(4項目合意)」である。
ここで重要なのが第3項、「双方は、~異なる見解を有している」と明記された部分だ。これは、領土についての異なる認識ともとれるし、領土問題が「存在する」と主張する中国と、「存在しない」と主張する日本との意見の相違ともとれる、いわば玉虫色の表現だ。しかしこれがあることで、以降の「対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」という文言の確認が実現した。この「合意」は、尖閣国有化初の2014年11月10日の当時の安倍晋三首相と習近平国家主席との日中首脳会談でも再確認されたのだ。
泉川さんは、中国に何らかの国内政策の変更をせまるのであれば、まずは信頼関係を築かなければならないと強調した。少なくとも、今の岸田政権のやり方、すなわち「他国(明らかに中国を想定)の尖閣上陸」を想定した日米による連日の合同軍事演習、防衛費の2倍化、敵位置攻撃能力の実現などは、中国との信頼関係を築いていくこととは真逆である。(湯本雅典・取材:7月29日)